ウコンは、沖縄の特産品としてよく知られています。ウコンには、秋ウコンと春ウコンがあります。私たちが身近に知っているのは秋ウコンの方で、ここで紹介するウコンも秋ウコンです。何の断りもなく「ウコン」というと、秋ウコンのことを指しますので、ここでも単にウコンといういい方でお話を進めていきたいと思います。
独特の黄色い根っこがウコンの特徴です。ターメリックともいわれ、カレー粉の原料に使われていますし、たくあんの着色剤、草木染の染料としても重宝されています。とても身近にあるため、有難味に欠けるかもしれませんが、このウコンに大変な抗がん効果があることが、最近の研究でわかってきています。
ウコンは、かつて沖縄が琉球王朝だった時代に、中国(当時の明国)から薬用や染料、調味料として輸入されたことが沖縄に根付くきっかけでした。やがて、その薬効が知られることになり、“不老長寿の薬”として全国的な人気の生薬となりました。江戸や大阪では、御用商人の卸値の10倍から30倍もの価格で売買されたと伝えられています。現代のアガリクスどころではない大変な人気の生薬だったわけです。
そのウコンが、現代の科学で分析され、次第にその効果の秘密が明らかにされてきました。有効成分として確認されているのが、「クルクミン、ターメロン、シネオール、アズレン、α‐クルクメン、フラボノイド(ビタミンP)」といった物質です。そして、その機能として、「肝臓能強化(胆汁分泌促進)」「健胃作用(その結果としてストレス性胃炎の改善、消耗性疾患の改善、肝障害の回復)」「抗がん作用」などが報告されています。
ウコンの薬効が再評価され、注目されるきっかけをつくったのはアメリカの国立がん研究所(NCI)でした。1990年、アメリカで栄養補助食品や健康食品などの効能表示を含めた「栄養表示教育法」が成立しました。そのときに、「デザイナーフーズ計画」が発表されました。
デザイナーフーズとは、目的に応じて調合した栄養補助食品(新機能性食品)のことです。それを機に、国立がん研究所では、アメリカのがんによる死亡率が減少過程に入ったことを発表し、それまで指導してきた食生活などの一層の改善を意図して、「がん予防の可能性のある食品成分」を公表しました。そのなかにウコンも含まれていたのです。
欧米でのウコンの研究は、その主要成分である「クルクミン」を中心に進みました。 1990年、ニュージャージー州のラトガース大学(生化学部・薬学部)では、皮膚に発癌剤を塗布したマウスに濃度10mol(モル)のクルクミンを塗ったところ、表皮のがんの発生が39〜61パーセント抑制されたことを発表しました。また、同大学では、悪性リンパ腫や大腸がんにもウコンが有効であることを発表しています。
この研究が引き金になり、イギリスのマンチェスター大学は、クルクミンに活性酸素を除去する作用があることを報告しました。
そして、わが国でも、1994年にスタートした『がん克服新十ヶ年戦略』で、ウコンが「食品成分によるがん予防」の研究対象に取り上げられました。それによって、名古屋大学の大洋俊彦教授は、国立がんセンターとの共同研究で、経口投与されたクルクミンは、そのままの形ではなく、小腸の上皮細胞で還元され、「テトラヒドラクルクミン」に変わることにより、その抗酸化能力が大幅にアップして、発がんを促進する活性酸素を消去するというメカニズムを解明しています。
その成分であるクルクミンが注目されたウコンでしたが、クルクミンがすべてではありません。ウコンにはクルクミン以外にもたくさんの有効成分が含まれており、それらが複雑に作用しながら、さまざまな効果が出ているわけです。その什組みを解明することは困難なことですが、効果については整理されてきました。
ウコンの効果として、まず「抗酸化作用」があります。がんの原因といわれる活性酸素を除去する作用です。これはクルクミンの研究で明らかにされたことです。そしてもう一つの効果が、この項のテーマである「血管新生の抑制」です。ウコンによって、がん細胞への栄養や酸素の補給路を断つことができることが、実験で明らかになったのです。 |